距離/佐倉 潮
僕が語りかけているのはあなただ。
そして、あなたはこの詩を読む必要はない。
なぜなら、この詩はどこを探しても
詩ではないからだ。
詩でないものを、あくまで詩として掲げているだけだから
詩を読みたいあなたに、読ませる部分はない
ただ全体として、語りかけているのは
不幸にせよ、幸いにせよ、あなたしかいない。
僕が今、語りかているのは。
この詩は暗号だ。偽文だ。平文にするための
キーが、世界のどこかに落っこちている。
それがどこかは分からない。おそらくあなたが
モニターをのぞくのを止めた時に、気づくかもしれない。
ただ残念なことに、この偽物の詩は
モニターの中でしか生きられない。
重ねて言うが、私は皮肉を書いて暮らしている
猫ではない。犬でもない。
では、人間か?
いや、人間はどこかに去ってしまった。
何者か分からない。
でもこうして書いている。
詩ではない、死でもない。あなたが救ってくれるのを
待っている。詩と死のあいだの距離をたゆたゆと
漂わせて。
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即興。アポリネール「星」を聴いて。
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