優しい傷跡/大島武士
 
心の闇に眼を凝らせば
悲しまなければならない事があるのに
夕暮れの中で 人を想う時
幸福を感じてしまう

正午過ぎに届いた葡萄を
くるんでいた 三年前の夕刊を読みながら
自分の中の
穴だらけの世界史と
過ぎた日の記憶を頼りに
その日 僕が
むなしい気分だったのか
嬉しい気持ちでいられたのかを
思い出してはいるけれど

そこに記された 残酷な記事にさえ
懐かしさで微笑んでしまう

夕暮れの中で
幸福を感じながら

人を愛しく思い続ければ
いつかは命を終えて
身体が滅んでしまっても
僕が命を終えた場所に
強く優しい傷跡は残り

いつか星が砕け散って
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