着ぐるみ同盟/オダ カズヒコ
彼女が玄関で
クマの着ぐるみを穿いていた
世間で言う
「バランスを保つため」
なのだそうだ
後ろのチャックが閉まらないと
長い黒髪を掻きあげ
中腰でせがむ
「早くしてちょうだい!」
ジッパーを上げてやると
彼女はすぐに電話を手に取り
着ぐるみ仲間と連絡を取った
「今から行くからー」
ちょっと待て
その格好のまま
町をうろつくのか?
僕は今すぐ
ナチス・ドイツが復活して
エルサレムに侵攻してくれないかと
モスクワのラビのように祈ったが
もちろんそれは正しい意味で
「バランスを保つため」
・・・なのだが
町へ出ると
着ぐる
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