さざなみ/もっぷ
まぼろしをみているのではない
みずうみが現れて問うのだ
「なぜ来たの」
「だってわたしのなみだがみえませんか」
躊躇わずに応えていた
確かに泣いていた
さびしさと
寒さに
いくども住所を変えていまは
東京の下町にある北東角部屋に居る
ふゆにばかり風が好んで窓を叩く
ふゆ以外がいったいどうであるのかを
いまこの瞬間に思い出すことができない
母はいない
父を度重なるがんの転移でついに失った
親類も 遠い縁者すら知らずに
独りを知り尽くしたつもりでいる
わたしなら
喩えではなく真実
夢を食べて生きている
いつまで経っても蒼いままの三十一文字
そしてただ待って
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