冬の金魚/イナエ
陽の当たらない玄関の
下駄箱の上に置かれたガラスの水槽
その中に金魚が一匹
夏の宵
太鼓の音や提灯に囲まれた広場の
入り口で掬い取られて
運ばれてきた
たくさんの兄弟と泳ぎ回った池からは
形の良い兄や妹はすでに連れ去られ
落ちこぼれたぼくらは
春の陽や水上深くを流れる綿雲に群れて遊び
初夏 たまに訪れるボウフラを取り合って
楽しい日々が続くと思っていたけれど
大きな網に捕らえられ暗い狭い箱で揺られていた
酸素の少ない水から口を出し空気を食べて
たどり着いた浅い水槽の中
針がねの輪っぱに張られた紙に追われ
泳ぎ回る
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