図書館の魔女/藤原絵理子
「その紙に書いて…」
ぶっきらぼうに言った
彼女の横顔は デジタルに
その上 形而上学的に
LEDに代わった信号は
きっぱりと 黄色から赤に変わった
車のウィンカーだって 余情なく
きっぱりとしたもんだ
新刊書を借りに来たと思っている
彼女のメガネは 不機嫌に傾いて
右側のつるが 耳たぶの真ん中に
引っかかって 痒そうにしている
貸出カードの申込用紙だけは
白いブランクを 愛想よく並べて
アナログの文字を 待っている
ボールペンが走ると 心地よい
形而上学的な 生理痛なんかな
あたしは 一番奥の書庫の古い本を
どうしても借りたいと 思っているだけ
デジタルが 好きじゃないから
申込用紙も 脂汗をかいて
ボールペンの文字が ところどころ掠れた
住所と名前が 不自然に踊った
IDとPWではなくて 真物
「今,貸出中」
やっぱり ぶっきらぼう
メガネも吊り上ったまま
PCのモニターだけ 見ている
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