異邦人/葉leaf
 
私はそのとき不意に、自分がそういった赤の他人と全く同じだという感覚に見舞われた。私は名も知らず心の内側も見えない歩行者や通行者と何ら変わるところのない、一個の物質的な人間だった。私は「私」という王国からいつの間にか追放され、まったくの異邦人となっていたのだ。私はもはや世界の中心でもないし意識の主体でもない。「私」という王国の外側に居る、素性の知れない異邦人なのだった。

そもそも「私」というものは一個の美しい幻想に過ぎなかった。歴史によって丁寧に育成されたかけがえのない尊い自我など存在しなかった。だから「私」という王国も、実質的には、神殿だけが豪華で人一人いない廃墟に過ぎなかったのだ。私は名もない異邦人として、夏の光のただ中でふるさとの地図を丁寧に描いていた。「私」という王国が存在しない以上私は異邦人ですらなく、ただの一個の人間であり、ふるさとを生きることで一個の地図を、他の無数の人間たちと共にふるさとの最奥に寄せ書きしているだけの存在だった。

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