ニューハーバー/草野大悟2
酪農、というなんだか牧歌的な響きに誘われて、避暑気分で北海道に来てしまったことを、小野智子は早くも後悔していた。
緑色に輝く広大な牧草地、吹き渡る爽やかな風。ここまでは想像どおりだった。
搾乳機を付けたホルスタイン。
「ずいぶんたくさんいるけど何頭いるの?」
「たぶん、百頭ちょっと」
えーっ、と大きな声が出た。智子の想定外の多さだった。
大学二年の夏休み。同じ東南大学文学部、本田和夫の実家。
早朝から、牛舎の掃除、餌やり、搾乳、原乳の組合への搬送、バター・チーズ・ハムの製造・保存処置・出荷と間段なく続く作業……、もう、うんざり!。
「本田君、私、家に帰るから」
「えっ
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