能面/イナエ
 
壁に掛かった能面たちは
電灯に照らし出されると
生き返る

幼い子には
能面たちの話す声が聞こえるのか
じっと見つめ後ずさりする

激しい風雨の夜は
般若面が半開きの口の奥で
歯を食いしばり
部屋を守っていた

あくる朝
般若の横の
小面の白い頬に一筋の赤い涙
一体何があったのか
こらえてこらえて
つい零してしまったような一粒

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