晩夏だったはず/飯沼ふるい
ちょうどあそこの
宅地に囲まれた
整地もなされていなくて
誰も見ているけど
誰も知らないような
小さな野っ原
まずあの野っ原がなければ
始められない気がする
姿のない声が
はっきりとそこから聞こえる
「うしろのしょうめんだぁれ」
子供らの唄うはないちもんめ
けれど本当にそうだという確証はない
他の人には
ヒステリックな主婦の金切り声や
老いたサラリーマンの鼻唄に
もしかしたら泣き女の痛ましい嗚咽だったり
はたまた人外の虚のようなおののきにさえ
感じうるかもしれない
暮らしの中のふとした追想か
けれどそれは本当に子供らの声に違いない
そしてそ
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