アフリカの匂いがする/オダ カズヒコ
ぼくが座席を乗り出して訊くと
ダチョウはこともなげに言った 俺んちだよ
車はあきらかに 動物園の方へ向かっている
通学鞄を背負っている子供の傍を通り過ぎた
結婚しているのかい?
何?
結婚しているのかい?
野暮なこと訊くなよ 嫁さんと子供は故郷に残してきた
出稼ぎだよ 俺が京都に来たのもつい2年くらい前さ
日本語がうまいな
大学で勉強したからな
ちょっとガソリンスタンドに寄ってくよ
彼はシビックのハンドルを切った
ダチョウは給油口の位置を間違えて 車を二度ほど切りかえした
やれやれだな
彼はレギュラー満タンっと ロン毛のアンちゃんに言うと
カードを手渡した
ケータイが鳴るとダチョウは聞いたことのない外国語で
ぺちゃくちゃとしゃべった
受話器の向こう側で年増の女の声がした
きっとそれは長距離に違いない
ダチョウの逞しい首筋から
ポロシャツの襟首からポロリと
アフリカの匂いが ツンとした
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