大トロが食べられない/栗山透
「たとえば」
と、あなたは話しはじめる
私は耳を傾ける
「僕は大トロが食べられない
脂身の繊維の切れ目が、傷口みたいに見えるから
僕は小学生のころ、肌が弱くて肩の皮膚がよく裂けていた
じんじんして体操着には血がついた
腕を下へ振り下ろすと痛むんだ」
そう言うとあなたは右の肩を手で押さえた
苦々しい顔でこっちを見る
「大変だったね」私は言う
板前が大きな包丁を使ってマグロをさばく姿を想像する
もっと大きな傷を負ったマグロ
「今はすっかり治ったのね、肌」
つけくわえて私は言う
「あぁ」
あなたは手を肩から離して答える
「でも、まだ大トロは食べられない」
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