かぶと/島中 充
さかなの匂うまちから
黒い袋を抱えて
私は電車の席に座っている
黒い袋をおさえて
乗客の視線が私の膝の上に集まっている
おさえても おさえても 黒い袋が動くのだ
死にたくはないと跳ねるのだ
私はきのう見た夢の事を思っていた
口を開いて死んだ父が
ベッドのわきに現れ
くちぎたなく歴史や私をののしった
親から子へ 子から孫へ
どうしても どうしても というものだけが
つながっていくのだ
わたしは父をベッドにおさえ込み
開いた口に石を詰め込んでいる
お前の恨みを私に果させるな
期待になんか応えられない
私は泣きながらおさえ込み 口に石を詰め込んでいる
いつ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)