灰の中の野ばら/クナリ
 
灰の中を駆けるくらい、どうということは無いと思った
どんなに汚れたって、体の中まで汚れるわけではないと信じた
汚れた服を脱ぎ捨てれば、また同じように愛されるはずだと信じた

駆け抜けているうちに、灰など吹き飛んでいくと思った
灰にまとわりつかれて、走れなくなるとは思わなかった
灰の方が、僕より速いとは思わなかった

振り払えない灰に、体の中まで冒されるとは思ってもいなかった
自分も灰に変わっていくなんて、この目で見ても信じなかった

自分さえ何とかすれば、自分のことは何とかなるのだと皆に言われた
きっとその通りなのだろうと、あても無く信じた
けれど灰の中に倒れたら、もう立ち上がれやしなかった

お前が立ち上がらないからだと、みんなみんな笑うだろう
けれどその時ようやく、僕は僕のままだと気付く
そしてその時ようやく、また始まるための風が僕の上を渡っていく

僕の死体は、両手いっぱいに、灰の中の野ばら。

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