もみぢ踏み分け/藤原絵理子
 

柔らかい悲しみは 降り積もる
落ち葉に埋もれて 腐敗の暖かさに
林の樹木は無頓着に 日々を紡ぐ
自然な 季節の移ろいに 滑らかに


回転運動の 単調な繰り返しに
追随して耀く 儚く健気な すべてのもの
秋の夜更けに 虫の音に紛れて
落ちていく 螺旋を描いて 安らぎを求めて


寺の萩は散った 肌寒い風に揺られて
竹葉の先に宿った朝露は 乾いて消えた
放蕩息子の徳利に 酒は一滴も残っていない


雄鹿の鳴く声が 密かに杉木立を抜ける
捨ててきたものへの 挽歌に耳をそばだてる
ふと過ぎる 風の芯が 過ぎ去る時を知らせる

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