大人がひとり(2014.2〜2014.10)/新嶋樹
 
夕暮れにからだ半分置いてきてもう半分は夜にふくらむ

昨日まで空飛んでいた人なのに今日は訳知り顔で立ってる

鬱の字の凝り固まったぐじゃぐじゃを叩いて割って珈琲を飲む

ピンで突く喉の先から生まれ出る谺のごとき絶滅種たち

鼓膜から鼓膜へと旅する波の底にてアンモナイトが泳ぐ

手の内を明かしてほしい人ばかり黙ってレタス洗い続ける

もう二度と行かないだろう町の地図指でなぞって過ごす休日

絡まったコード鞄につめこんで隣の人はずっと寝ている

さみしさに腹を空かせて座りこむ庭のパイプにへびの這う音

泣きごとをどこにしまっているものか大人がひとり傘をさしてる
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