嬋娟な美女/陽向
 



雑沓する街で
嬋娟たる美女が
憂愁な表情を浮かべて
ベンチに坐り
てかけで頬杖を突いている


通り掛かった彼は
思わず恍惚とし
胸の奥でときめく潮騒に
若干驚きつつも
長い間足踏み状態であったから
久しぶりのその響きに
靡かれていた


だからと云って声を掛けようとは思わなかった
その響きの後の会話はいつも決まって躊躇してしまうのだ
もう帰ろうかしら
それでもやはりもっと見ていたかった
振り向かないでと祈りながらも
振り向いてほしい気持ちがあるのは
ことに辛かった


そんな物思いに耽り
いつの間にかあれこれと物思いに耽ることに夢中
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