秋/イナエ
遠方に響く地鳴りや砲声は
踊り回る現代に吸収されて
硬化した鼓膜を揺することもなく
指先のおしゃべりが
視神経に五月蠅くつきまとい
裸形の幻想を漂わせる
意欲は
ものぐさな希望に同調して
ベッドに潜り込んだまま
発火する術を失った
海馬に巣くう町の潮騒が
三半規管を回遊し
萎縮する脳の陥穽を埋める
腎臓に居残った自然が流れ出して
膀胱を膨張させるとき
闇に透ける溲瓶が泡立ち始め
軋む膝は 遠ざかる健康を
傾いで追いかける
夢は幻覚に惑わされ
遠くに霞む虹を憧憬して
過去を遡る
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