「雨のはなし」 /キキ
 
年月にふさわしい威厳を持つ装丁に
心奪われたとき

物語は音楽になるだろうか
文字のすきまから立ちあがる
雨のにおいにまぎれたとき



「わたしにあたらしい傘を買ってください」

 *

けものみちから外れた
日々のあしあとは
振り返るときには草木に埋もれている
どの季節にも等しく雨は降り

眼をあける


改札を通り抜け、手を振った


雨のはなしをするひとのまわりに雨はなく
明るい色の傘がひらひらとまわる

夢のなかでは
けっしてたどりつかない雨
足もとを見つめると
影は傘と同じ色をしているが
そのひとは気づかない

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