「雨のはなし」 /キキ
年月にふさわしい威厳を持つ装丁に
心奪われたとき
物語は音楽になるだろうか
文字のすきまから立ちあがる
雨のにおいにまぎれたとき
*
「わたしにあたらしい傘を買ってください」
*
けものみちから外れた
日々のあしあとは
振り返るときには草木に埋もれている
どの季節にも等しく雨は降り
眼をあける
改札を通り抜け、手を振った
雨のはなしをするひとのまわりに雨はなく
明るい色の傘がひらひらとまわる
夢のなかでは
けっしてたどりつかない雨
足もとを見つめると
影は傘と同じ色をしているが
そのひとは気づかない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(17)