「雨のはなし」 /キキ
 
けれども
身じろぎもせず息をひそめて
眠ったふりをとおす
それがきみのためになればいいのだけど

夜が終わるのを待つあいだ
カーテンの裾からもれる淡いひかりに
痙攣するまぶたでこたえながら
うすい毛布にからまって
温みをのがさないように動かずに
いる

ねこみたいにすべりこんでくるのは
土をなでる水音
ながいこと寄り添っていたように
自然なしぐさでわたしの耳元に足を折る

 *

眼をあける
霧のなかにも降る
ひかりの粒子

思い出すのは
はじめて足を踏みいれた町で
背の丸まった店主のいるちいさな古本屋にはいって
奥付にそっと刻まれた
その年月
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