置いてき堀/kaz.
山道を父とともに走りながら、目に写るものを少しずつ言葉にしていく。葉の落ちた落葉樹の群れの中で、静かな光を放つ常緑樹。走る私の喘ぎ。このままくずおれてしまいそうだ。ならばいっそ自分から、くずおれてしまえ。前を走っている父が言う。大丈夫だ。あともう少しで家に着く。父よ、言っておくが私はもう無理だ。限界だ。走り切れない。走りにキレがない。父よ、だが大丈夫だ。私はダメかもしれないが、お前は大丈夫だ。お前なら私をおぶっていける。ダメだ、それでは共倒れになる、と父。ならばいっそのこと共倒れてしまえ。走り去る父。私は置いてきぼりを食らう。むしゃむしゃ。なかなか味がある。こいつはいけるぞ。なんて名前の料亭だろう
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