夜になればかえるは/Debby
 
がったかえるはそう切り出した。舞台の裾では足のない羊が所在なさげに自分の順番を待っていた。
 観衆は収穫を待つ麦畑だった。それはどこまでもどこまでも広がっていて、誰もがとても悲しそうだった。
 観衆はどこまでも続くビル街だった。非常階段の片隅で、誰かが煙草を吸っていた。誰もがとても悲しそうだった。
 早くしろ、と羊は僕に向かって口の形を作った。とにかくでっち上げて、終わらせろ。おまえの人生はいつもそうだったろう、と彼の三日月型の目が伝えていた。
 子どもたちはキャンディを欲しがっていた、とても運転の上手い男の車に乗せられて、彼らは一人残らずどこかへ連れていかれてしまった。
 そこはきっとここより暖かな場所だ。雪の降らない街だ。
 ビルが崩れ始めた。羊は逃げ出すことが出来なかった。爆撃機が来たんだ、と彼は言った。彼女のことを考えた。夜を走る車の助手席で、彼女は眠っていた。子どもたちも眠っていた。男が最後のカーヴを無事に曲がる音がした。
 かえるはもう鳴かなかった。
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