恋人になっていたかもしれない男/森川美咲
 
恋人になっていたかもしれない男と
冗談を言う夢を見た
醒めたあともまだ楽しいような
生々しい夢だった

恋人になっていたかもしれない男と
大喧嘩する夢を見た
醒めたあともまだ腹が立つような
生々しい夢だった

恋人になっていたかもしれない男は
恋人にはならずに
あの日私にかけたとおなじ言葉を
ある日傍らに咲いた美しい花に捧げ
恋人になり夫となり
遠い町で父となった

恋人になっていたかもしれない男と
恋人になっていたかもしれないと気づいたのは
彼が旅立ってからだった
と思うことにした
何も気づいていなかった
ということにした

時々ふつふつと湧いた何かが
重い蓋を押し上げてあふれ
恋人になっていたかもしれない男の
生々しい夢を見る
また今夜も
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