はて?/イナエ
はて?
住宅地の細い道
前から来た黒いセダンの
ドライバーが微笑みながら軽い会釈
反射的に会釈を返したが
ちらっと見えた横顔には見覚えがない
目で追った車は角を曲がって
その先は個人の住宅
あの人なら団地のレクレーションで
ソフトボールをやった仲
三十年も経れば顔の変化は当然
とは思ってみても…
地下鉄車内で合わせてしまった顔
学生時代は同じゼミ
その後も時々あっては居たが
今 やつの名が飛んでいった
「あの先生も亡くなったらしい。
年賀状の返事がなかった」
どの先生などと聞き糾すのは野暮というもの
会話の話題はどれにも固有名詞が抜けている
どうやら相手からもぼくの名が逃げたようだ
だったらこいつの名前も決して言うものか
と思った途端戻ってきた「フルサワ君」
「そうだよな。古沢さん…」
と言ったらどうするだろうなフルちゃんは
小鳥来て何やら楽しもの忘れ
はて 作者は誰だったっけ?
(念のために 作者は星野立子氏)
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