滑空/碧姫
 
雑踏 歌舞伎 午後8時24分
はじめて見た指先の細胞
甘んじて削り取られた心がうずく
穏便な感動はもう既に地中深く
ぐるりと回ってそれもまた同じ場所へ

君が教えてくれた寒さを今感じようと裸足で履いた
小さな紅い草履の色は上にちらつく草色の長襦袢に
ある程度の抵抗を見せてすぐ隠れてしまった

広がる森に林立するが如く
白くて細い二本の足を
あなたは愛おしく抱いたのだろうに

何と言う残酷さ 何と言う無謀さ
夜風に舞い狂う私の咽頭には
ソプラノゆえの小さな傷が・・・・

信号 枯山水 午後22時30分
もう一度見つめる指先の細胞
そらんじている歌詞を思い浮かべながら
殺生な悔恨は高みに埋めようと手を伸ばし
ころりと倒れるよりも前にさっさと眠りにつく




高速 立待月 午前1時52分
あなた行きのバスが
私を乗せて滑空している
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