瑠璃の海/吉岡ペペロ
貴人を載せた牛車が通り過ぎた
俺はひざまずいてその車輪を睨みつけていた
後続が完全に行き過ぎてみんなぞろぞろと立ち上がる
車輪の轍に行って俺は指先でそれをさらった
そして砂の匂いを嗅ぎ遠くに見える牛車の隊列を見やった
あの牛車は女の天皇を載せていたようだ
周りがその女を見たとか見えなかったとか言って騒いでいる
俺は砂のついた指先をふたつ口に入れた
誰が通ろうが、ただの砂じゃねえか、誰が通ろうがよ、ただの砂じゃねえか、
俺は苦笑した
そして短い息を吐いた
俺は砂をなめて酔ってしまったようだ
てことは、ただの砂じゃねえのか、貴人さんの通った跡はよ、
俺は自分の職業を思い出して誰にも聞こえないようにつぶやいた
盗んでやる、いつか、こいつを盗んでやる、
そうつぶやくと胸に風が吹くようだった
砂ぼこりが舞い上がる
遠くちいさな隊列はもうその幻しか見えなかった
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