◆ Terence T D'arby best selection ◆/鈴木妙
りません」
だった。少し蒸し暑い。梅雨入り前の午前十一時といった時節か。
「仮想現実?」
「違いますけど。まあ」
「え?」
「おいおいわかりますよ」
レプリカにしては、また『応接間』にしてはじっさい精巧で広い。振り向けば既にドアはなく、券売機や自動改札へ歩く人間も見受けられる。もちろん通りにもミスドのなかにもいた。電光掲示板に書かれた「〜〜方面」の文字が少し記憶と違う気がしたが視力が悪いので判別できない。また亜衣が聞く。
「人も?」
「はい、人も」
現状。新しい部屋に入ったと思ったら駅前だった。自分でも存外に冷静で亜衣のリアクションも薄いのは、ここまでの経緯が経緯だからなの
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