hexachloroethane六重奏/凍月
 



実験室に一人
倒れていた


痺れて一寸も動かない
もう何も感じない部屋
血管内を毒が駆け巡る
血反吐を吐いてもなお
痛みも恐怖も感じない
生きている自覚の薄れ

その三角フラスコの中に
自分の感情を閉じ込めた
コルクでずっと封をした
いつの間にか漏れ出した
久し振りに心の毒を見て
鼻を突く臭いすら今では

何も感じない

沸々と思いは煮えるもの
カタカタと振動する鼓動
本物のソレと違う点は只
簡単に昇華するかどうか
それだけだ、それだけだ
沸々と想いは煮えるもの

並んだ六本の試験管
それぞれが震えている
注意しないといけないよ
人の想いも化学物質も全部

高濃度なら麻酔にだってなる
生命を冒す毒性も持つ上に
取り扱い注意の爆発性で
死の予感がどろりと
痺れて無感覚の体を舐める


実験器具に封じた感情
六本の試験管の中で踊る
ヘキサクロロエタンが今に
僕を跡形もなく、吹き飛ばす





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