白夜/草野大悟2
 
った
名付けられた記号に操られる空蝉  

なんの咎もないのに

そうか
君はそんな螺旋の縛りのなかを吹いてきたのか

呟いたとき
鉛色の空に
ぽっかり
檸檬が浮かんだ

楕円形の笑いを浮かべたそれは
ひとしずくの涙さえ拒否するような
氷の衣をまとっていた

存在を奪われた 
石と君は
どこに転がり どこを吹けばいいのだろう
羽化してきたばかりの抜け殻にもぐり込めばいいのだろうか

蝉が鳴く深夜
戸惑いは 迷子になった
蝉は行方を知っている
知っているが知らないでいる

雨が横殴りに降ってきて
部屋の中をかき回す
あのころ泳いでいた鮫は
どこへ行ってしまったのだろう

碧落のはてに干潟は沈み
行く夏ははらはらと降り積もり
君と石の眠るべき場所さえ奪い去る

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