薔薇の棘/陽向
 
二人の男女が終え、男はいつもの習慣でタバコを吸う。
「お前は吸わないのか」
男は何かを感じ取ったように、不自然に自然さを装い言った。
「呼吸が冷たかった」
女は呟き、悲しそうにタバコに火を点ける。
「嘘がうまいなぁ」
男の心は揺らいだ。
「嘘をついてるのは、あなたよ」
女は冷たい目で男を見る。
男は急に自然になった。
そこには、もはや何かを隠す色もなく、別の何かを思っている目をして、女を見た。
部屋には怒りもなく、ましてや優しさもなく、ただ重く冷たい空気だけが漂う。
「別れよう」
女は男の目も見ず、ぽつりと言った。
男は、女には聞こえないくらいの安堵のため息をついた。
「でも最後に一つだけ教えておくわ」
女はその時、初めて男の目を見た。
「あなたが他を向くようになる、ずっと前から、私にはいたのよ」
男は戦慄した。
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