八月の記憶/イナエ
 
青い陶器瓦の下に埋もれた
記憶を掘り出してどうなるというのだ

焼け落ちた家の跡の
現実と幻想の交叉した風景の中に
私が立っていたあの日
陽光に照らし出された井戸の
湧き出る水に沈んでいた小振りな茶碗
日の丸と旭日旗の交叉したそれは
割れることもなく 洗う人を待っていた

その日
君の疎開する予定だった山に囲まれた村の
夏陽の照りつける終着駅のプラットホームで
君の祖母は着いた電車の
空になった車両を覗き込んでいたと聞く

私の中に存在する君は
暗い陽光と君の祖母の話と共に
記憶に閉じこめられて もう帰ってはこない

だが この辻に立つとき
陶器瓦の家の
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