それでね。/佐野権太
 

夏の日の夕暮れ
いつまでも続け
つないだ手のぬくもりほどの
せつなさを抱えて

メビウスのまんなかに
つかのま立ち止まり
見つめ合った、ぼくら
いまよりもずっと
不器用で、素直だったね

確かなものなんて何もないって
知ってた
少しも途切れるのが恐くて
つないだ穂先の
危ういてんとう虫

だけど
伝わってたよね
ことばのゆくえ

前髪をなおすくせ
ひかりのぐあい
そんなやさしい風景が
耳をうつ
それでね。






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