人魚の唄/ソリッド町子
僕の隣で眠る彼女が
真夜中突然跳ね起きて
大きく一度息を吸う
呼吸を覚えたての人魚のように
そうして怖い夢をみたという
彼女はおそらく陸にまだ
うまく慣れることができていない
昔の約束を律儀に守り続け
たまにこんなふうに
息をするのが難しくなる
僕は
とにかく彼女の肌を濡らさなければいけないと思う
彼女はそういう生き物なので
彼女の足の鱗を撫でて
僕は背中にキスをしてやる
でも彼女はそれで生きられるわけではない
それを二人とも知っている
与えた水を彼女はさっそくこぼしてしまう
目尻から
かわいそうだね
でも僕は与え続ける
なんせ彼女は人魚なので
まだうまく陸で生きられないだけなんだよ
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