ナニカ/草野大悟2
 
ランダに出た。
 マンションの玄関に救急車が止まっていた。
 髪を振り乱した『ナニカ』が叫んでいた。顔には狂気が貼り付いていた。『ナニカ』は、「グゥエー、グゥエー」と、大声で叫びながら、救急車の周りをぐるぐる回っていた。
 次の瞬間を最上階の女ははっきりと見た。
 女の自慢のひとつは二・○の視力だ。救急車が発車しようとした瞬間、『ナニカ』が前輪直近にサッと滑り込んだ。『ナニカ』は、長く赤い舌でペロペロ車輪を舐めていた。
「危ない!」大声で叫んだ。
 届かなかった。
 救急車が発車した。直後、ゴトン、ゴトンという鈍い音がした。停車した救急車から救急隊三人と男が飛び出して来た。
 四人
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