杳子/HAL
 
声を聴いてしまったからだ

また女は一緒に食事を摂らなかった
一緒に食べないかと一度だけ声をかけたが
後で頂きますと答えたのでもう詮索はしなかった

大晦日の前日にしめ飾りを買いにいくと
すぐに戻ると言った切りその女は
除夜の鐘が衝き終わっても戻っては来なかった

何か事情があったのだろうと想うだけで
戻ってくるかもとの浅はかな期待は抱かなかった
それは希望の一種であることは分かる歳になっていた

希望にも由るだろうが大抵の希望は期待が生む
ただ希望と期待を見分けるには多少は苦いものを
飲み込んで来なければならないことは知っていた

杳子にはもう二度と逢えないだろうと
こういう場合に最も信頼できる直感が告げていた
あの大晦日からもうすでに十六年が過ぎ去った昔語り
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