杳子/HAL
古井由吉が芥川賞を取った作品と同じ名前
それが本当に女の名前だったかはもう朧だ
苗字も聴いたか聴かなかったかで分からない
よく行く馴染みの飲み屋で働いていた女
ただその女が注文を聴いたりしていた時だけ
店に少女と淫靡が入り交じる異質な空気を感じた
一緒に暮らしたのは十月からの三ヵ月
ただ身を寄せる所がないので置いて欲しいとの
女の言葉に断る理由もなかっただけのことだ
男鰥夫の部屋が綺麗になったこと
料理も洗濯も家事もしなかったこと
ぼくの生活の変化といえばそのくらい
ただ女とは一度しか関係を持たなかった
ぼくが寝入ったと想ったのだろう
女のすすり泣く声を
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)