旅人の会話  /服部 剛
 
然を本と思い山に入った
その人のめでたい話を聞いた僕は、呟いた
――母の体は自然の宮のようですねぇ…  

すくっと僕は立ち上がり
眼下にのびる二百八十七の石段を
携帯カメラの画面に、かしゃっと納め
よいしょっとその人も立ち上がり
古びたリュックを肩にかけた

――じゃあ、お先に
――良い旅を

寂しくも嬉しそうな初老の父の背中が
古びたリュックを揺らしつつ
段々小さくなり
五重塔の脇道に吸い込まれていった  






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