旅人の会話  /服部 剛
 
その人は大きく息をついて、腰を下ろした
――これは、何段あるんですかね…
――二百八十七段です、どちらからですか?
――高知です
――遠いですねぇ…僕は横浜です

傍らに、古びたリュックが置いてある
――これで幼かった娘と富士山を登りまして
――ずいぶん長持ちですねぇ…
――もうかれこれ二十年…今月、結婚するんです
――へぇ、それはめでたい

子宮筋腫だった娘さんは
身籠ってからというもの
不思議と腫れが引いたという

  *

昨日僕が会った甲府教会の信徒は、言った
――自然は第二の聖書です
今日、僕が開いた本の中の僧侶は、言った
――修行僧は皆、自然を
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