ケモノ丼/大覚アキラ
 
牛丼屋のカウンター越し
やけにキレイな厨房の中で
ケモノの肉を煮る男を見た
目が合うと男は意味深に頷き
丼を片手にぼくの方にやって来た

やあ どうも おまたせしました
このケモノはいつものケモノとは
少しばかり味が違うんですけどね
コイツはコイツでそれなりにイケますよ

ケモノの肉を煮る男は
愛想の良い笑顔を浮かべて
丼をカウンターの上に置いた
丼の中の白飯の上には
見たことのないケモノの肉が乗っている
ケモノの肉の臭みをごまかすために
生姜 大蒜 八角 といった
香味野菜や香辛料が大量に使われていて
しかし
ごまかしきれないケモノの臭いが
ぼくの中の創造への欲求に火を点ける
ぼくは急いで家に帰ると
ケモノの像の制作に着手した

これがぼくの代表的な一連の作品
『ケモノ丼』の原点になろうとは
ケモノの肉を煮ていた男はもちろん
ぼくでさえ知る由もなかった
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