壁の染み/永乃ゆち
 


それを確かめる事もできずに
私は町を離れた。

 

今。
私はあの人と離れ
一人
毎日を汗だくで過ごしている。

 

あの人の事を
思い出す時間も減ってきて
いろんな事を忘れ
いろんな事を覚え
暮らしている。

 

もしもう一度あの人に会えるなら
壁の染みはどうなったのか聞いてみたいと思う。


ただそれだけで良い。
あのふて腐れた横顔と
磨かれた靴を
胸にしまい込んで
ほんの少し
弱気になる。

 

時々
痛いけれど
あの時のあの想いは
今も私の心の底に流れているから
それだけで良い。

 

あの人が今も
壁の染みと睨にあっていると良いなと思う。
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