壁の染み/永乃ゆち
 



駅から五分の
アパートは格安だけど
壁の染みが怖いんだ。

真顔であの人がそう言うから
外国のタバコと
ふて腐れた横顔には
似合わないセリフだと思って
笑ってしまった。

大きなドクロの指輪と
磨かれた靴の住む部屋で
壁の染みと睨みあっているあの人を
想像してまたおかしくなった。

私は
あの子ではないから
その光景を目にする事はできないけれど
それでも
楽しかった。
良いと思っていた。

 

半年後。
あの子と
あの人が
一緒に暮らし始めたと
誰かから聞いたとき
あの染みはどうしたんだろうと
少し気になった。

 

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