戦争の準備/紀ノ川つかさ
死んでは困る
ここは物置小屋である
人間がここで死ぬと
「神の手」がこの小屋を叩き潰すだろう
あの女を追い出すためには
あの女を生き返らせなければならない
物置小屋にとって
人間とは血管の塊である
だから直感的にできると思ったのだ
早くしないと
早くしないとあの女が来てしまう
なぜ疎開せずに残っていたのだ
何かを振りかざしていた腕には
無数の鋲を打ち付けられた
何かを目指して駆けていた足は
監禁されていた浴室で切断された
そしてけだもののようになって
ここに逃げてくるのだ
物置小屋は激しく震えて軋んだ
もう時間がない
パイプが一斉に笛のような悲鳴を上げる
しかしまだ液体は生まれてこない
その時ドアに
手がかけられた
追悼 河原温
「物置小屋の出来事」より
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