戦争の準備/紀ノ川つかさ
 
疎開のために
中のものはすべて持ち去られた
その物置小屋には窓がない
暗がりの中は
板の間からのわずかな光が射すのみである
今そこに鉄パイプが生まれて
中に人間の血液と同じ成分の
液体を流そうと試みるのだ
もとより頭脳を持たない小屋である
だから何かを生み出そうにも
苦悶するより他にない
パイプは十本二十本と増殖し
次々と関節を生み出し
次々と鋭利な針を生み出し続けるが
そこに液体は生まれてこない
早くしないと
早くしないとあの女が来てしまう
あの女が来てここで腐って死んでしまう
傷を負い半死半生でここに来るのだ
逃げて隠れるために来るのだ
しかしここで死ん
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