寒い夏の情景/イナエ
 
月光に色彩を失った体温がナイフを研ぐ
知恵は分裂と融合を繰り返し
情欲に肥大した心が沸騰している
突出した眼が揺れて
生じた眉間の隙間にナイフが潜り込み
矛盾にゆれる知性を切り裂いていく

脳の襞に踞る夜の嬌態が抉り出されて
夏の庭に跳ねる白い光の中に拡散する
湾曲した音は地球を包み
床下の壺に淀む高僧の言葉をくみ出し
庭にばらまく

脳細胞は曲がることもなく
幻想と現実の混濁する大気を直進して
拡大する秘図を宙に映し出す

神々は人間に伝搬した己の行為に赤面し
欲情を膨張させる人間に
干渉するすべを捨てた

のではなくて 
人間の物欲に小突き回され

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