寧去/もっぷ
麗らかな忘却の朝
とりとめのなく少女の眠る家
旅人のために庭では薔薇の惜しげもなく
善い水を湛えた井戸はそこかしこの
古の村の
麗らかな忘却の夜
朗らかに悟って少年の眠る家
旅人のためにきらきらと門燈の並ぶ
ここは生活のない村、そして地図では
見つけることのできない
寄る辺のない仔猫の
行く末を案じる、無機質の布を纏った
ヴィーナス像が
仔猫を旅人と引き合わせる
勘の鋭い旅人は仔猫を優しく抱き寄せて
次の道の夢に迷い込む
洗い晒しの麻のシャツの襟元で
燕のブローチの青く光る
仔猫と旅人の蜜月の日々が
陽光の許に契られる
麗らかな忘却を破り
少女と少年は同時に目醒める
庭の薔薇が枯れてゆく
門燈の割れる音がする
地図が村を画きはじめる
もうおしまいだ
支度を済ませた旅人が仔猫とともに村を出る
それこそが神との永劫の約束だったから
一度も振り返ることのなく旅人が村から遠ざかってゆく
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