扉/草野大悟2
 
ノアール以外は何もない。風も吹かない。山は音という音を忘れている。
「マリンスノウみたいだね」
「そうだね、マリンスノウみたいだ」
「雪の匂いがするよ」
「そうだね、雪の匂いがするね」
「これからどこへ行くの」
「どこへ行こうか?」
「あなたが決めて」
「それでいいの?」
「ええ」
「そう、いいんだね」
 シュラフの中で裸で抱き合いながら二人は互いの影を見つめた。
「ブランはどこ?」
「ブラン?」
「そう、ブラン」
「さあ、僕にも分からない」
「探しに行こう」
「ブランを?」
「ええ」
「今から?」
「ええ」
 ノワールに沈んだ二人が、ブランを見つけ出
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