街の箱/プテラノドン
 
兵士だった老人は
昨日、落とした琥珀色の腕時計を
探しに出たきりまだ帰ってこない
さびしげな終鈴、
「遠ざかる。」

街灯がともされた道端から
セピアのスカートがせせら笑う
モノクロアーケードの喫茶店
その明かりはまだ、ついちゃいなかった
ついちゃいけなかった。
彼が意味深な注文を口にするまでは


もしもその時、
舞台袖で野良猫なんかが鳴いてたならば
観衆がその後たどる運命は省略されただろう
しかしその日、
初めて舞台に立った役者の男は
客席にいた彼女が微笑むまでは
その科白を言うつもりはなかった。

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