月夜のプリズム/藤原絵理子
 

穏やかな気持ち
鏡のあちら側にいる 羊
軋む階段の踊り場から
見下ろしている 外は月夜

白いドレスの裾は ひらひらと
ドアの隙間から洩れる
蝋燭の揺らめきに合わせて

昼間の庭師は忙しく
赤い林檎のつぶやきも聞こえない
シャンデリアと靴音
遠い南の海で 戦争が始まる

鏡のあちらの惑星で
あたしと羊は丘に座って
青い夕焼けを眺める
3つ目の月が昇る

真珠の髪飾りは ゆらゆらと
友を想う月の光に混ざって
酔った白髯の老人が 筆を走らせた

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