ドミナント/智鶴
 
何も湛えない世界を笑い飛ばして
小さな水溜りに片足を踏み込んでは
こんなことも出来ないのに
何故、見えない鎧に屈しなければならないのかと
途方も無いことを考える

灰色のアスファルトには
少しだけ色濃く自分の影が映るから
真っ白な空との目が眩むほどの明度差にも気付かずに
俯いた視線の先ばかり見つめて
朧な存在感に浸っているだけ

誰かが吸った煙草の残り香に噎せて
いつから自分は不通になったのだろう
こんな未来に生きるなら
死んでいた過去は報われない
あの時、ペンケースの中で誓った筈の未来も
気付かない内に嘘になっていた

世界が裏返って
あの日折られたコンパスと
中庭の池に捨てられた上履きが
それを眺めているのは誰だろう
短くなった制服ズボンを抱えて
悔し涙を誤魔化しているのは

軋むブレーキ音
薄く意識が戻って来る
また眠ってしまっていたのか
頬の涎か涙の痕を拭って
つい今まで見ていた夢も忘れながら
また、知りすぎてしまった世界に閉じこもる

行ってきます
次は
いつ眠るんだろう

戻る   Point(1)