夜間飛行/アマメ庵
 

なぁに、車が楽々すれ違えるほどの道なのだ。
落ちるはずがない。
運動神経だってそれほど悪いつもりはない。
真っ直ぐに歩くだけ。
真っ直ぐに歩くだけ。
落ちたら痛いだろうな。
それ以上に格好悪い。
もしかすると怒られる。
水が貼ってあるところなら最悪だ。
右か。
左か。
上か。
それはないか。
風が耳のなかで囁くたびに、足がふわりふわりと浮き上がる。
アスファルトの路面がぐにゃりと曲がる。
気持ちがいい。
雲の上を歩いているようだ。
いっそこのまま落ちたって良い。
やっぱりそれは困る。
右か。
左か。
右か。
どんどん自身がなくなって、どんどん歩幅が小さくなる。
やがて地面を擦るような低空飛行。

ダメだ。
降参だ。

目を開ける。
ぼくは田んぼの真ん中の、アルファルトの道の、やっぱり真ん中に取り残されていた。
金網は、まだもう少し先にあった。
真っ直ぐな道を、真っ直ぐに歩けば良い。
分かっている。
簡単なことだ。
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